
大手メーカーとの商談では、加工精度だけでなく「緊急時に生産を止めない体制があるか」を問われる。
いわゆるBCP(事業継続計画)だ。停電、設備の故障、災害、そして取引先である自社が立ち行かなくなった時。お客様は、その時に部品の供給が止まらないかを見ている。
弊社の場合、その答えになっているのは、不景気をきっかけに生まれた同業4社との助け合いだった。この記事では、その成り立ちと、実際に助けられた経験、そして町工場がBCPを考える時のポイントをまとめる。
大手が見ているのは「この先何年もパートナーでいられるか」
大手メーカーとの商談で聞かれたのは、次のようなことだった。
- 材料をどう調達しているか
- 品質保証の体制
- 財務の状況
- 設備投資への意欲と資金調達の方法
- 人員の構成
- 停電や設備故障などの緊急時にどう備えているか
問いを一つにまとめると、「御社は、この先何年もパートナーでいられる会社か」ということになる。
小さな会社だから大手と取引できない、のではない。技術や装置があるから取引できる、のでもない。長く任せられる会社かどうかが問われている。その中でも、緊急時の備えは、小さな会社ほど説明が難しい項目だ。
不景気がきっかけで生まれた、4社の助け合い
4社は、それぞれ強い業界が違う。半導体、自動車、産業機械、建築資材、航空機器。取引先の業界がばらけているからこそ、ある業界が止まっても、別の会社は動いている。
ある業界が数年単位で止まると、その業界に強い会社の仕事が止まる。そんな時、その会社の社長から声がかかった。
「何かお仕事、手伝えることありませんか?」
そこで、うちの仕事を一緒にやってもらった。
逆に、うちが急な増産で回らなくなり、「なんとか助けてほしい」とお願いに行ったこともある。仕事が止まった時も、仕事があふれた時も、お互いに支え合ってきた。
6倍の生産依頼を支えてくれた一言
ある時、以前作った部品一式で、同じ納期で6倍に生産を増やしてくれ依頼された。うち一社では、とても賄いきれない量だった。
協力会社に相談に行くと、返ってきたのはこの言葉だった。
「以前助けてもらったから、精一杯頑張りますよ」
この時、苦しい時期に積み上げた関係が、そのまま生産能力になっていると実感した。増産の依頼は本来ありがたい話だが、一社で抱え込めば納期遅れや品質低下を招き、かえって信頼を失いかねない。助けてくれる仲間がいたからこそ、チャンスを逃さずに済んだ。
門幅3000mm超級の設備22台を、4県に分散

現在、この4社で確保している門幅3000mm超級の設備は22台。拠点は4県に分かれている。
大物加工の設備は、一台が止まると代わりを見つけにくい。機械そのものが大きく、どこにでもある設備ではないからだ。どこか一つの地域で災害やトラブルがあっても、別の県の設備で生産を続けられる。大手の商談でBCPを問われた時も、この体制を資料で示して回答できた。
取引先の業界も、特定の1社に依存しない
もう一つ意識しているのが、取引構成の分散だ。弊社も、特定の1社に依存しない取引構成を心がけている。半導体、自動車、産業機械、建築資材、航空機器など、業界の異なるお客様と取引している。
一つの業界や一社に売上が偏ると、その業界が止まった時に会社ごと止まってしまう。取引先の業界と、緊急時の生産拠点。その両方を分散させることが、小さな会社が長く選ばれるための条件だと考えている。
設備はお金で揃えられる。頼れる関係はそうはいかない
設備は、資金があれば揃えられる。しかし、止まった時に頼れる関係は、お金では買えない。苦しい時に助け合った実績の上にしか積み上がらない。
材料の調達でも同じことを経験した。流通していない難削材を、取引のない材料問屋さんが先に動いて届けてくれたことがある。その話は「大阪に一枚だけの難削材を探して削った」に書いた。いざという時に動いてくれる人がいるかどうかが、町工場の対応力を大きく左右する。
町工場がBCPを考える時のポイント
町工場のBCPというと、設備の二重化や在庫の確保を考えがちだ。もちろんそれも必要だが、少人数の会社が一社だけで全てを備えるには限界がある。
- 強い業界が異なる会社同士で組む
- 仕事が止まった時に、仕事を分け合う
- 増産の時に、助けを求められる関係を作っておく
- 設備と拠点を複数の地域に分散させる
- 取引先の業界も、一社・一業界に偏らないようにする
- その体制を、商談資料で具体的に説明できるようにしておく
こうした関係を平時から持っておくことが、大手から見た「この会社に任せても大丈夫か」という問いへの答えになる。
発注する側の不安を減らすという営業の考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」でまとめている。
他社に断られた大物加工を受けた事例は「大阪に一枚だけの難削材を探して削った。大手自動車メーカーのサプライヤーになるまで」にまとめた。
