大阪に一枚だけの難削材を探して削った。大手自動車メーカーのサプライヤーになるまで

大阪に一枚だけの難削材を探して削った。大手自動車メーカーのサプライヤーになるまで
「探してほしい」から始まった大手との取引:材料を探す、一枚だけの難削材、大板を高精度で加工、サプライヤーへ

町工場への相談は、長い間ずっと同じ形だった。

「この材料、この大きさで削れる? なんとかしてくれ」

材料も図面も決まっていて、こちらは加工できるかどうかを答える。それが当たり前だと思っていた。

ところが、大手自動車メーカーからの相談は違った。

「素材メーカーの資料で、こういう素性の材料を見つけた。探してほしい」

求められたのは加工だけではなく、材料を探すところからだった。この案件が、弊社が初めて大手自動車メーカーのサプライヤーに加わるきっかけになった。

流通していない材料を、一両日中に動かす

調べてみると、機械に取り付けられる大きさのその難削材は、ほとんど流通していなかった。手を尽くして、ようやく見つかったのは大阪に一枚だけ。

しかも在庫を持っていたのは、一度も取引のない材料問屋さんだった。一両日中に動かさなければ、納期に間に合わない。

すぐにアポイントを取り、銀行とも掛け合った。

「明日には振り込みます。なんとか、その材料を埼玉のうちの工場へ入れられませんか?」

材料問屋の部長さんが動いてくれた。取引のない弊社のために、材料代を振り込む前に手配してくれた。材料はすぐに工場へ届いた。

材料調達は「加工の前工程」として見られている

この経験で強く感じたのは、大手にとって材料調達は加工と切り離せないということだ。

大手メーカーとの商談では、加工精度だけでなく「材料をどう調達しているか」も聞かれた。図面に書かれた材料が、いつでも市場で手に入るとは限らない。特に特殊な材料や大きなサイズになるほど、流通量は少なくなる。

材料を探せること、探した材料を短期間で工場に入れられること。それ自体が、発注先を選ぶ時の判断材料になっている。

2m×4m、厚さ50mmの大板を、ひずみ0.3mm以内で

届いたのは、2m×4m、厚さ50mmの大板だった。これを重切削加工し、ひずみと反りを0.3mm以内に収める必要があった。

2000mm×4000mm、厚さ50mmの大板の反りを5mmから0.3mm以下に抑えた加工を示す図

大きく厚い板を削ると、材料の内部に残っていた力が解放され、ひずみや反りが出やすくなる。さらに難削材は、切削工具への負担も大きい。大物であるほど、一度の失敗が材料の再手配や納期遅れに直結する。今回は、市場にほとんど残っていない一枚を使うため、やり直しはできなかった。

一度のミスも許されない製品を、門型マシニングセンタの導入を直訴した若い職人が、難なく仕上げた。

納期通りに完成した製品を見て、お客様から言われた。

「これは、世にない技術だよ」

2,000社超のサプライヤーが断った仕事だった

大手自動車メーカーのサプライヤーは2,000社を超える。そのどこでも断られた仕事だった。

この案件をきっかけに、弊社は初めて大手自動車メーカーのサプライヤーに加わった。

振り返ると、受けられた理由は一つではない。

  • 流通していない材料を探し出せたこと
  • 取引のない問屋さんが、信頼して先に動いてくれたこと
  • 支払いの段取りを、その場で銀行と決められたこと
  • 大物を重切削しても精度を保てる設備と職人がいたこと

どれか一つが欠けても、この仕事は納期に間に合わなかった。

大手が求めていたのは「調達から完成まで」を任せられる相手

大手の発注先選びは、加工精度だけで決まらない。図面にない材料を探す力、資金の判断を即座にできる経営、難しい加工を引き受ける職人。その組み合わせを一つの窓口で任せられることに価値がある。

大手との取引で問われるのは、技術を売り込むことより、お客様の不安を一つずつ消していくことだと感じている。この考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」でもまとめた。

また、大手と仕事をすると、材料や周辺工程など、自社の専門外の相談を受けることも増える。そうした相談への向き合い方は「専門外の相談にAIでどう向き合うか。町工場の「目利きの入口」を作る方法」で紹介している。

サプライヤーになって、設計段階から相談が来るようになった

この取引をきっかけに、大手自動車メーカーのサプライヤーになった。その後は加工の依頼だけでなく、設計段階の相談も届くようになった。

ある時は、部品を締結するボルトの本数が足りるかを聞かれた。お客様は板厚を薄くすることと加工方法を中心に検討していたが、こちらからは、ねじにかかるせん断荷重の向きも確認するよう伝えた。

図面が固まる前から相談される関係になると、加工する側の経験を設計に生かせる。「削る会社」から「一緒に考える会社」へ、取引の位置付けが変わり始めている。

町工場が「探してほしい」と相談される会社になるために

門型マシニングセンタで大型プレートを加工する若い職人

この案件から学んだことを、町工場の営業の視点で整理しておく。

  • 材料問屋や素材メーカーとのつながりを、普段から広げておく
  • 急な調達や支払いに対応できるよう、銀行との関係を整えておく
  • 大物・難削材など、他社が断る加工を受けられる設備と人を育てる
  • 「削れますか」に答えるだけでなく、材料や工程まで含めて提案する

町工場の強みは、設備の一覧表だけでは伝わらない。困った時に動いてくれる取引先、即座に判断できる経営、そして難しい加工を引き受ける職人。その組み合わせが、他社に断られた仕事を受けられる理由になる。

「削れますか」ではなく「探してほしい」と相談される会社になる。そこに、大手との取引の入口があった。

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