
今年、ようやく工場にエアコンを入れた。500万円の投資だ。
大物加工の広い工場を丸ごと冷やすのは、大手なら当たり前にやっていること。しかし町工場にとっては、長年の夢だった。
この記事では、なぜ空調への投資を最後に回したのか、導入前に何をしたのか、そしてその投資が大手との商談でどう役に立ったのかをまとめる。
投資には順番がある
エアコンは、それ自体が利益を生む投資ではない。だから順番は最後だった。
- まず、返済
- 次に、稼げる機械
- 稼げるようになったら、給与
- そして、働く環境
会社が苦しい時期に、利益を生まない設備へお金を回すことはできなかった。先に会社の数字を立て直し、稼ぐ力を作り、社員の給与を上げる。その後で、ようやく働く環境に投資できた。
「稼げる機械」として3年前に導入したのが、8,800万円の門型マシニングセンタだ。
なぜ空調は後回しになりやすいのか
工場の空調は、売上に直結しにくい。機械を入れれば受けられる仕事が増え、給与を上げれば人が定着する。それに比べて、空調の効果は数字で見えにくい。
さらに、大物加工の工場は天井が高く、床面積も広い。家庭やオフィスのように、エアコンを付ければすぐ冷えるというわけにはいかない。冷やす空間が大きいほど、設備費も電気代もかかる。
だからこそ、会社に体力がつくまで手を付けられなかった。
エアコンの前に、工場の周りを断熱材で囲った
広い工場は、空調を入れても冷気が逃げてしまう。そこでエアコンを入れる前に、工場の周りを断熱材で囲った。

設備を入れる前に、効果を出すための土台を整える。これは機械の導入と同じ考え方だ。どれだけ性能の良いエアコンを入れても、建物から熱が出入りしていれば、効果は半減してしまう。
金属は温度で伸び縮みする
空調は、働く人のためだけのものではない。精度にも関わる。
金属は、温度によって伸び縮みする。一般的な鋼材の場合、長さ1mのものが1℃変わると、およそ0.01mm(10ミクロン程度)伸び縮みすると言われる。小さな部品なら気にならない差でも、大物になるほどその影響は大きくなる。
朝と昼、夏と冬で工場の温度が大きく変われば、測った寸法も変わる。加工する時の温度、測る時の温度、お客様のところで使われる時の温度。大物を扱う工場ほど、温度は精度の説明から切り離せない。
商談で聞かれた「温度による伸び縮み」
先日、大手との商談で質問を受けた。
「温度による伸び縮みまで、対応できるんですか?」
「はい。大物屋ですが、できています」
胸を張って答えられたのには理由がある。測定機メーカーが三次元測定機を現場に持ち込み、保証範囲内であることを確認してくれていたからだ。
「あとはその測定機を導入すれば」と話すと、お客様からは笑顔でこう返された。
「そこまでの精度は要りません。一般公差ですから」
大手との商談では、精度だけでなく、品質保証の体制や設備投資への意欲、緊急時の備えまで問われる。その中で、温度という目に見えにくい要素について、第三者の確認を根拠に答えられたことは大きかった。
働く環境への投資が、品質の説明になった
エアコンは、社員の働く環境を良くするために入れた。大物を削る仕事は、ただでさえ体力を使う。
しかし結果として、その投資が大手との商談で品質を説明する材料にもなった。温度の影響を受けにくい環境があること、そして第三者の測定で確認していること。どちらも、精度を口で説明するより説得力がある。
町工場が工場空調を検討する時のポイント
今回の経験から、町工場が空調への投資を考える時のポイントを整理しておく。
- 返済、稼げる設備、給与の順に体力をつけてから実行する
- 空調の前に、断熱で冷気や熱が逃げない土台を作る
- 働く環境だけでなく、温度と精度の関係として説明できるようにする
- 測定機メーカーなど第三者に確認してもらい、根拠を持つ
- 大手の商談で、品質保証の一部として資料に盛り込む
利益を生まない投資は、後回しになりやすい。ただ、順番を守って会社の体力をつけた上で実行すれば、働く人のためにも、顧客への信頼のためにもなる。今回の空調は、そのことを実感させてくれた投資だった。
品質の根拠を示してお客様の不安を減らすという考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」で書いた。
設備が止まった時に備える4社のつながりは「門幅3000mm超の設備22台を4社・4県で確保。不景気から生まれた町工場のBCP」で紹介している。
難削材の大物加工をきっかけに、大手自動車メーカーのサプライヤーになった経緯は「大阪に一枚だけの難削材を探して削った。大手自動車メーカーのサプライヤーになるまで」に書いた。
