8,800万円の設備投資は、機械選びより前に始まっていた。5年かけて整えた数字と人

8,800万円の設備投資は、機械選びより前に始まっていた。5年かけて整えた数字と人
門型マシニングセンタ導入までの5年間:赤字を止める、決算書と銀行、補助金を段階的に、職人が使いこなす

一番若い職人から、『ケンちゃん、新しい機械を買ってよ。汎用機もマシニングも、両方回すから』と直訴されたことがある。

赤字が続き、腕のある職人にも旧式の汎用機しか使わせてあげられなかった頃だ。応えたかったが、気持ちだけで大型設備は買えなかった。

そこから5年かけて会社を立て直し、8,800万円の門型マシニングセンタを導入した。うち5,000万円は補助金を活用した。振り返ると、投資の出発点は機械の比較ではなく、会社の数字と人の準備だった。

欲しい機械と、必要な仕事を分けて考える

大物加工をしていると、設備の制約で応えきれない相談がある。職人に腕があっても、設備が追いつかなければ、その力を生かしきれない。

ただ、大きい機械を入れれば仕事が増える、と結論づけるのは早い。何を受けられるようにしたいのか。今はどこが制約なのか。加工の後に測定や段取りの課題が残らないか。投資を検討するなら、その問いを先に置きたい。

協力会社へ頼む、既存工程を見直す、今は受ける範囲を絞る。そうした方法と比べても、自社に設備を持つ意味があるかを考える必要がある。これは今回すべてを比較計算したという話ではなく、経験から整理した判断の観点だ。

最初に手を入れたのは、会社の数字だった

自分が進めたのは、赤字を止め、銀行が融資を判断できる決算書を整え、銀行との関係を見直すことだった。利益の出るお客様へ取引構成を変え、仕入先も見直した。立て直しを一緒に進めてくれた顧問税理士との出会いは「年商は最悪期の5倍、給与は倍に。会社を立て直す一番の近道は、頭を下げに行くことだった」に書いた。

設備が入る前から、返済の元になる事業を整える必要があった。導入後の売上だけを頼りにして、投資前の赤字を残したままでは、計画が少し外れただけで苦しくなる。

これから検討するなら、期待する仕事が遅れた場合、稼働が想定より上がらない場合にも支払えるかを見たい。売上だけでなく、材料費や外注費、段取り、保守などを含め、手元に何が残るかが大事になる。

補助金は、買う理由の代わりにはならない

補助金は300万円、1,000万円、1,500万円と段階を踏んで経験を積んだ。銀行とも継続的に活用を相談してきた。

制度を利用するなら、申請して終わりではない。発注や支払いの時期、報告、入金までを含む資金の流れを確認する必要がある。採択と交付決定も同じではない。使える経費や着手の条件は、対象制度の公募要領で個別に確かめる。審査から交付、報告までの流れは、中小企業庁の補助金入門「補助の審査・交付・報告」が参考になる。

ここに書いた金額は過去の自社事例であり、今使える制度や補助率の案内ではない。『補助金が出るから買う』ではなく、その仕事に必要な投資かを先に判断する。補助が想定どおりにならない場合にどうするかも、銀行や支援先と詰めたい。

機械を使う人の変化までが、投資だった

導入を求めた職人は、手打ちのGコードから2次元CAM、3次元CAMへと使う範囲を広げた。今では、市場にほとんど出回らない材料の加工も担っている。

機械が入ったことと、その仕事を継続して回せることは別だ。使いこなす時間や、迷った工程、次に先に確認することを経験として残す。自分ならできる人が一人いる、だけで止めないことも投資の課題になる。

大手との商談でも、設備だけでなく、材料調達、品質保証、財務、投資、人員構成、緊急時の備えまで問われた。見られているのは、機械の大きさだけではなく、仕事を続けて任せられる会社かということだと感じた。お客様の不安を一つずつ消すという営業の考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」でまとめている。

大型設備への投資は、補助金を得て購入した日で完了しない。返済できる事業と、使いこなす人がそろい、要求に応える仕事を続けられて初めて価値になる。あの職人の直訴に応えるまでの5年間は、その準備の時間だった。

門型マシニングセンタ オークマ MCV-AⅡで大型プレートを加工する職人

気づきカテゴリの最新記事