
Webサイトや展示会を通じて、地元の外から相談をいただく機会が増えた。最近は、新幹線や飛行機で訪問することも増えている。
その中で、WebサイトやYouTubeは、遠方のお客様にとって「最初の工場見学」になっていると感じる。
ただ、機械が動く動画を見せれば、それで仕事が決まるわけではない。
動画で伝わることと、発注するために確かめたいことには、隔たりがある。
この隔たりを埋めるところまで考えないと、動画は見てもらえても、具体的な加工相談にはつながりにくい。
お客様が知りたいのは、設備名より「自分の図面を相談できるか」
加工会社の側は、設備の名前や大きさを説明したくなる。
もちろん、それは重要な情報だ。ただ、発注先を探している人が確かめたいのは、設備の立派さだけではない。
「自分が抱えている、この部品の相談先になるか」
そこを判断したいはずだ。
例えば「大物加工に対応」と書いてあっても、それだけでは分からない。
どの程度の寸法なのか。どんな材質を扱ってきたのか。どこまで加工し、何を測定できるのか。似た形状の経験はあるのか。
設備一覧は、会社の持ち物の説明だ。
そこから一歩進めて、その設備で、どんな相談に応えられるのかを示す必要がある。
動画は「やっている証拠」になるが、「保証の証拠」には足りない
弊社のメルマガでも、670件の配信でクリック上位に並んだのは、Xの投稿とYouTube Shortsへのリンクだった。
現場の加工を見せる情報に、関心が集まったことは確認できる。
ただし、そこから「動画が受注を増やした」とまでは言えない。クリックされたことと、発注先として選ばれたことは別だからだ。
加工動画にも、同じ区別が必要になる。
大きなワークを削っている映像なら、設備や加工のスケールは伝わる。しかし、映像だけで完成後の精度や検査結果まで証明できるわけではない。
だから、動画には役割を持たせたい。
動画で加工の実態を見せ、文章や測定の説明で、相談できる条件を補う。
一つの動画に、会社紹介から品質保証まで全部を背負わせないことだ。
加工事例は「材質・寸法・課題・対応・確認」で整理する
これから加工事例を整えるなら、写真や動画の横に、次の五つを置きたい。
材質と寸法。
自分の相談に近いかを判断する入口になる。
依頼時の課題。
何を削ったかだけでなく、何が難しかった仕事なのかを示す。
その課題に対して行ったこと。
「技術力で解決した」では、発注先の比較材料にならない。公開できる範囲で、対応の考え方を伝える。
結果を何で確認したか。
加工したことと、要求を満たしたことを分ける。確認済みの結果だけを書く。
今回の相談では、何を確認する必要があるか。
過去にできた仕事が、条件の違う図面でもそのままできるとは限らない。その違いまで伝える。
これは、現場のノウハウを全部公開するという意味ではない。
顧客名、図面、用途、固有の工程など、出せない情報はある。必要なのは秘密の公開ではなく、相談する側が適合性を判断できる説明だ。
ページの最後を「お問い合わせください」だけにしない
事例を読んで興味を持っても、何を送れば話が進むか分からなければ、問い合わせには手間がかかる。
だから、相談の入口にも準備が必要だ。
図面、材質、数量、希望納期、特に厳しい公差や検査条件。分かる範囲で何を伝えてほしいのかを示す。
図面を渡す前に秘密保持の確認が必要なら、まずその相談ができることを案内する。
未確定の条件がある案件なら、それを未確定として話せる入口も必要になる。
問い合わせの件数を増やすことと、判断に必要な情報がそろった相談を増やすことは違う。
専任営業がいない会社ほど、最初の往復で何を確かめるかが、その後の負担を左右する。
再生回数だけで、営業への貢献を判断しない
動画の再生数が伸びたら、うれしい。
しかし、加工会社の営業として知りたいのは、その先だ。
自社の対応範囲に合う相談が来たか。図面を受け取れたか。見積へ進んだか。受注し、採算の合う仕事になったか。
一方で、見積まで進まなかった問い合わせにも、見直す材料がある。
対応できない寸法の相談ばかり来るなら、加工範囲の説明が曖昧なのかもしれない。品質の質問が繰り返されるなら、検査体制の説明が足りない可能性がある。
アクセスや動画の数字は入口を見るもの。問い合わせや商談の記録は、入口の説明が適切だったかを見るものだ。
YouTubeにも視聴維持率などの分析機能があるが、それは視聴の状況を測る指標であり、自社の受注実績とは分けて見る必要がある。YouTube公式ヘルプ
Webで済ませる説明と、人が向き合う判断を分ける
Webや動画の役割は、訪問営業をなくすことではない。
設備、加工範囲、事例、検査体制といった基本情報を先に渡し、会ったときには個別の図面や条件について話せるようにすることだ。
遠方への訪問には、時間も費用もかかる。
その時間を会社紹介の繰り返しに使うのか、それとも「この条件なら、どう進めるか」という検討に使うのか。その差は小さくない。
製造業のWebで目指したいのは、立派な会社に見せることではない。
相談できること、まだ確認が必要なこと、相談を進めるために必要な情報が、会う前から分かること。
そこまで用意して、WebとYouTubeは営業の準備になる。
